我輩は猫である 夏目漱石 (PDF)
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吾輩は猫でござす。名前はまだござっせんと。どけーで生まれたっじゃい、とんと見当
んつきやっせんと。たしきゃー、薄暗かじめじめした所っでニャーニャー泣ゃーとったこたー憶えとる。
吾輩はこけーで初めて人間ちゅうもんば見た。書生ちゅう人間の掌にのせられて、すーっと持ち上げられ、一時ゃよか気持ちで座っとったばって、ひょくっと吾輩の体は、えらい速さで動き始めた。やたりゃ目の廻る。胸ん悪うなる。こりゃとても助からんばいと思うとったりゃ、どさっと音んして、目から火のでた。
そりまでは覚えとるばって、後は何のこっか幾ら思い出そうとしてんわからん。ひょっと気じぃてみれば、書生はおらん。ぎょうさんおった兄弟が一匹もおらん。肝心の母親さえ姿ば見ん。
そん上、今までん所と違うてやたりゃ明っか。目ば開けとりえんごたる。どうも何じゃい様子んおかしかともて、のそのそ這いじゃぁてみれば、何様身体ん痛か。
吾輩は藁ん上から笹原んなきゃ捨てられたったい。よよして、笹原ば這いじゃぁたりゃ、むけーふとか池ある。
吾輩は池ん前にうっ座って、どがんしたろよかろかにゃて、考えてみた。別にこれちゅう分別も浮かばん。ニャーニャーちゅて試しに泣ゃーてみたばって誰も来ん。
そんうち日の暮れ掛かる。なんさま腹ん減ってきた。泣こごたるばって声ん出ん。しよんなか。何ちゃよかけん食い物のあっ所さんあいぼうて決心して、そろそろ池ば左に周りじゃーた。
何様どもこも苦しか。そこば我慢してがむしゃらに這うて行たりゃ、よよして人間臭か所れでた。
竹垣ん崩れた穴から、とある邸内に潜りくうだ。縁ちゅは不思議なもんで、もしこん竹垣が破れとらんじゃったら、吾輩はとうと路傍に餓死しとったかも知れんばい。
そりばっかりか、ひいては吾輩の主人も吾輩の存在による型破りんこん傑作のお陰で、一躍文名ば天下にうたわるるにゃ至らんじゃったろもん。
さあて、吾輩は邸にゃ忍び込うだもんの、こりから先どがんすればよかっじゃい分からん。そんうち暗うなり、腹は減る。寒うはなるし、雨は降っだす始末で、一刻の猶予もでけんごてなった。
しよんなかけん、とにかく明こうして暖くそうな方に歩いて行く。今から考ゆっと、そん時はすでに、家ん中に這入っとったごたる。ここで我輩は、あん書生以外の人間を再び見る機会に遭遇したと。
その第一番に会うたとが下女のおさんである。これは前の書生よりまあだでん乱暴で、我輩を見るやいなやいきなり首筋ばつかんで表に放り出ゃた。
こりゃ駄目ばいて思うたけん眼をつぶって運を天に任せとった。ばってひだるかっと寒かっとにはどがんも我慢できん。我輩は再びおさんのすきを見て台所に這上ったが、またも投げ出された。
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